こんにちは。今回はタイトルの通り、円周率を一般化してみたいと思います。
円周率とは
小学校でも教わったとおり、円周率は円周の長さを直径の長さで割ったものです。大きさの異なる円であっても、この比の値は一定であることから、数学定数として定められています。
数学的に表現する
少し形式的に書き直してみましょう。半径の長さが1である円、いわゆる単位円は、以下の方程式で与えられます。
この曲線の長さの半分が円周率にあたります。この方程式の左辺はいわゆる2-ノルムを用いて表すことができます。2-ノルムとは に対して
と定義されるものです。2-ノルムを使うと、円の方程式は
とシンプルな表現になります。
曲線の長さ
次に円周の長さをどう定義するか考えてみます。きっちり書くのは面倒なのでふわっと書くと、曲線の長さは
と定義できます*2。円周を求める場合は、円に内接する多角形をたくさん考えたうえで、それぞれの辺の長さの和を計算し、それらの上限を求めればよいということです。
円周率を一般化する
ここまでは通常の円周率の定義について整理しました。これらを一般化してみましょう。
まず、2-ノルムを一般のノルムに置き換えます。すると一般化された単位円周は
となります。例えば 3-ノルム:
の単位円周は以下のようになります。
次に円周の長さも一般のノルムで測ることを考えます。具体的には、近似曲線の長さを図っている部分をノルムの値に置き換えればよさそうです。
ここで「線分のノルム」は、その線分を平行移動して、一方の端を原点に一致させたときにできるもう一方の端の値に対して、ノルムを取った値と考えます*3。
最後に、一般化円周率を、この単位円周の長さの半分と定義します。
円周を手計算で求めるのは一般に難しいため、円周率も同様に厳しいですが、後ほど具体的な表示が得られるいくつかの場合について計算します。
与えられた図形から円周率を定義する
実は、単位円周にしたい図形を与えると、それを単位円周にするようなノルムがただ一つ定まります。ただしノルムが存在するためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 有界な図形である。すなわちその図形をすっぽり覆うような円が存在する。
- 凸である。すなわち内部または境界上にある任意の2点に対し、それらを結ぶ線分は内部または境界上にある。
- 点対称である。
ノルムが定まれば、先ほどの議論を用いて一般化された円周率を求めることができます。つまり、(性質の良い)図形が与えられたとき、(それを単位円周とするような)円周率を定義することができます。
円周率の例
最後にいくつか例を挙げて、具体的に円周率を計算してみます。
例1. 正方形
下図の正方形の円周率を求めます。
この図形は有界かつ凸かつ点対称なので、これを単位円周とするノルムが存在します。実際、
と定めると がこの正方形に対応します。このノルムの下では、各辺の長さは2になります。例えば (1, 1) から (1, -1) へ伸びるベクトルは、原点から (0, -1) に伸びるベクトルを2つ並べたものなので、半径(=1)の2つ分のため2になります。よって円周の長さは8なので、円周率は4となります。
例2. ダイヤモンド型
次に正方形を45度回転させたような以下の図の円周率を求めてみます。
この図形はノルムが存在するための各条件を満たします。対応するノルムは
と表されます。この正方形も各辺の長さは2です。よって円周の長さは8なので、円周率は4となります。
証明は省きますが、実は拡大・縮小、回転、反転で一致する図形の円周率は一致します*4。
例3. 正六角形
次に下図の正六角形を考えてみます。
これはやはり性質の良い図形です。ノルムは省略します。
各辺の長さは1なので、円周の長さは6になります。よって円周率は3になります。
一般に正2n角形の円周率は以下のようになります。
のとき円周率が4になり、 のとき円周率が3になることを確かめてみてください。またこの式から、 と極限をとると に収束することが分かります。
例4. 3から4の円周率となる図形群
最後に、円周率が3と4の任意の値を取るような図形群を与えます。
上の図は以下の式で表されています:
- 第1, 3 象限:
- 第2, 4 象限:
周の長さを求めてみましょう。まず第2,4象限の部分は、各辺の長さが1なので、合計で4になります。第1,3象限の部分の長さを求めるために、下図を考えます。これは円周上に線分を引いたもので、折れ線の一部を取り出したものと考えてください。
濃い緑のベクトルは左上を向いていることから、x, y 成分それぞれの絶対値の最大値がそのノルムになることが分かります。これはちょうど縦の黄緑色の部分の(通常の)長さに相当します。
同様の議論を折れ線を構成する各線分について行い、少しだけ位置調整すると、下図のように正方形の2辺の形に揃えることができます。
この正方形の右上部分の頂点の座標は なので、この2辺の長さの和は となります。第4象限も同じ長さなので、合わせると となります。
以上から、周の長さの合計は なので、円周率は となります。 のとき円周率は3で、 とすると円周率は4に収束します。この円周率は について単調増加かつ連続なので、3~4の任意の値を取りうることが分かります。
まとめ
円周率を一般化して遊んでみました。具体的には
- 単位円周の定義
- 円周の長さの定義
を一般のノルムに対して定義しなおすことで、円周率を一般化しました。具体的に計算できる例を考えて、3以上4以下の値を取る例を発見することができました。
円周率が3未満また4より大きくなる例も頑張って探してみたのですが、ちょっと見つけることができませんでした。見つけたという方、あるいは存在しないことが証明できたよという方がいれば、ぜひ教えてください。また、円周率が3や4になる例が本質的に*5この記事で計算したものしかないかも気になるところです。
ちなみにナントカ教育で円周率が3と教えられたという噂話があって、そのツッコミとして「円周率が3だったら円が六角形になる!!」とか言われてましたが、奇しくも今回の一般化でも正六角形の場合に円周率が3になりました。ちょっと面白いですね。
ではまた。